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テレビや雑誌で芸能人を見て、キラキラした世界に憧れを感じたり、「私もきれいな服を着たい」と思ったりしたことはありませんか?
江戸時代、同じように憧れを抱いた人々が夢中になった「地歌舞伎」。
重要な文化として岐阜に残ると聞いて、訪ねてみましたよ。
岐阜県の東濃エリア、瑞浪市。
もともと一帯が水の中にあったため、化石が採れることで有名な地域。
この瑞浪の丘にあるのが、「美濃歌舞伎博物館 相生座」です。
毎年、地歌舞伎の定期公演が開かれている芝居小屋。
公演写真や衣装、小道具が展示されていて、衣装・化粧の体験もできます。
地歌舞伎ってなんだろう?
歌舞伎のこともよく知らないし……どんな化粧なのかな……。
館長の小栗さんにお会いして、お話をうかがいました。
お父上の思いを継ぎ、建物や衣装の保管などに尽力されています。
小栗さん「地歌舞伎は、地元の歌舞伎という意味。都会でスターが演じていたものを見た農民が始めた娯楽です」
幕府からの制限が厳しかった江戸時代。
着るものの色やかんざしの色、言動もすべて統制されていました。
かんざしは今でいうアクセサリー。
自由におしゃれができないなんて、当時の人は苦労したんだろうな……。
そんな時代、人々の唯一の楽しみが歌舞伎でした。
歌舞伎役者は幕府に反抗するように、自分の役を引き立たせるため、服の色や刺繍を派手にしていきます。
歌舞伎の題材は、心中事件、お家騒動、幕府批判など。
町で何か起きたら、1ヶ月後には芝居になっていたそう。
それって、現代のゴシップやスキャンダルの記事みたいですね。
「まさにそう!言いたいことを言えない世の中で、歌舞伎役者は美しい衣装を身につけ、旬の話題を演じていた。人々は、それを見るだけでスカッとしていたんです。歌舞伎は『割り切れない演出』も大事にします。悲しい話にも面白い話が入っているなど、いろいろな見方ができるので、何度も見に行きたくなるんです」
人々の唯一の楽しみになるのも納得。
歌舞伎って難しそうだと思ってたけど、意外と現代と共通点があるんだなあ。
小栗さん、「地歌舞伎」はどうやって生まれたんですか?
「役者は、幕府に『芝居は贅沢すぎる。1ヶ月、演じてはいけない』と言われて、江戸や大阪を追われることが多かったんです。それでも食べていかないといけないから、街道沿いの温泉場で芝居をしていた。その芝居を見た地元の農民が、『私もあんな着物を着たい!』『私たちもやりたい!』と言って、自分たちで始めたんですよ」
華やかな世界に憧れるのは、今も昔もおんなじ。
とはいえ、普通に歌舞伎をやると怒られてしまう江戸時代。
そこで農民が考えたのが、「お祭りの時に公演する」でした。
神事として地元の行事にすれば、幕府も許可やお金を出してくれました。
だから設備にも衣装にも、ちゃんとお金がかけられたんです。
当時、全国的に盛り上がりを見せた地歌舞伎。
その中でも、兵庫・神奈川・岐阜は「日本三大地歌舞伎」として現代に残っているそう。
なぜこの3県なんですか?
「理由は大きく2つ。ひとつは、その土地の殿様が『唯一の娯楽だから』と幕府に訴状を出したこと。もうひとつは、その土地の性格的に優遇されていたこと」
神奈川は、箱根の関所がある土地。破られたら江戸内外にいろいろなものが流出してしまうので、この関所を守る農民が必要でした。
兵庫は、瀬戸内海の海賊や九州の勢力から京都を守るために、やはり農民の力が必要な場所でした。
岐阜は、商業的に重要な中山道があることと、山中にある中山道の補修に農民の力が必要だったことが、優遇の理由でした。
つまり、娯楽を許してくれるリーダーと、「いざという時、がんばってもらわないと困るから」と大目に見てもらえていたことで、地歌舞伎が残ったというわけ。
やっぱり、残るには理由があるんですね。
「頻繁にお芝居ができると、今度は商業が成り立つようになります。岐阜はいち早く衣装屋を始め、かつ保存にも力を入れてきました。豊富な木材もあるから、芝居小屋を自分たちで建てることもできました」
木材や自前の衣装がない地域が多い中、ここまでそろって残っている地歌舞伎は岐阜だけだそう。
どうして人々が魅了されたのか。
どうして岐阜に残ったのか。
ひとつひとつ理由を教えていただくことで理解できました。
そんな地歌舞伎の衣装と化粧を体験できるんですね!
衣装と化粧は、役に合わせて選んでいただけます。
「今日は十次郎になりましょうか。初々しい若武者ですよ」
よろしくお願いします!
それでは変身開始です!
メイクを落として、髪をまとめます。どきどきする!
眉を消して、白塗りから。
リキッドファンデみたいに、手早くささっと。
スポンジを使って、ムラをなくします。
次は色づけ。
若い役なので、丸みのあるライン。
唇に赤をのせると、一気に歌舞伎っぽく。
眉と唇に黒を入れて、化粧は完成!
続いて衣装の着付けへ。
刺繍の入った綺麗な衣装は、200~300万円の価値があるそう。
ひゃーっ!背筋が伸びる……。
足袋を履いて
袴に足を通して
肩衣をつける。
この時点では、自分がどうなっているかわからなくて、そわそわします…。
カツラをつけて道具を持つと、完成です!
じゃーん!!どうですか?
自分の顔を見て唖然としたのもつかの間。
自撮りする頃には、ちょっと気持ちが大きくなっていました♪
歌舞伎場に移動して、所作を教えていただきますよ!
腕の位置や刀の持ち方、あごの引き方、目線のつくり方。
役者もなさっている大塚さんも加わって、先生おふたりに教わりましたが、簡単そうに見えて、やってみると意外と難しい。
腕がピクピクするのを必死で抑えて、ポーズを決め…ます。
決まった!!
団十郎みたいに!
芝居中、役者が重要なシーンで演技を止めるのが「見得」。
照明技術がない中、観客の注目を集める大切な演出方法でした。
私にも声援が集まるかな(笑)
いわゆる歌舞伎としてイメージが強いのが、「大歌舞伎」。
明治時代に政府の統制が入ったことで、地歌舞伎の自由さや泥くささがなくなり、美しさだけが残りました。
「美しさだけではなく、自由のある形に戻りたい」と、近年、大歌舞伎の関係者が取材に来ているとのこと。
「先人が残したものから、自分の生き方や生き様を教えてもらえることが、地歌舞伎の魅力。大歌舞伎がなくしたものを、地歌舞伎は残しています。地歌舞伎ががんばることで、大歌舞伎がもっと盛り上がったら嬉しいですね」
芝居だけでなく、自分で三味線、唄、化粧、着付け、衣装の保管・修繕もできる小栗さん。
子ども歌舞伎教室やスタッフ育成を通じて、地歌舞伎を次世代へつなぐ活動に力を入れています。
憧れの歌舞伎役者と同じ体験ができる相生座。
大歌舞伎では舞台に立てない女性でも、地歌舞伎なら立てちゃいます。
あなたも変身してみませんか?
施設名 | 美濃歌舞伎博物館 相生座 |
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住所 | 岐阜県瑞浪市日吉町8004-25 |
開館時間 | 10:00~16:00 |
入館料 | 100円(施設協力費) |
地歌舞伎体験料 | 化粧のみ:5000円 化粧+衣装+所作指導:10,000円 いずれもご予約が必要です。お電話にてご連絡ください。 |
地歌舞伎公演時期 | 毎年9月 |
休館日 | 不定休 |
TEL | 0572-68-0205 |
WEB | nakasendou.jp/aioiza |
岐阜県には29の地歌舞伎保存団体があり、各地で定期公演を行っています。
GiFUMATiCでは、「イベント情報」のページでご案内していますので、ぜひ合わせてご覧ください。イベント情報ページへ